心、揺さぶられた修理とのひと品

15年程前になりますがまだ小さなお子様を連れた御婦人が訪ねて下さいました。しなびて縮まってしまった財布をおづおづと差し出して使える箇所利用して再生することが出来ませんか…っと言われるのです、話を聞く事にしました…前年登山好きのご主人がその夏、穂高に登り滑落事故で亡くなったそうです、一冬越して雪が溶け仲間の救助隊が御遺体を連れ戻してご家族の元へ帰ってきたそうです、最愛の夫の残していったこの財布を何とかして復元し心のよりどころとして身近において使い続けたいと涙を流して語るのです。
話にのめり込んでしまった私にNOの返事は出来っこないと覚悟して引き受けました。
面影の一番残っているのは表銅しかないなと思い蒸気で膨らませてプレス機で最大限元の原形に戻し加脂剤を丹念に吹き込み本体の内側部品類をよく似た色の革を使って造りました。
早速、御連絡して来訪の日を決めてお待ちしてました、当日約束の時間前に来訪して戴き袋から出してお渡ししました、瞬間滂沱の涙
と嗚咽に私の頭の中は真っ白となり目頭が熱くなりもらい泣き寸前でしたが、ありがとう御座いましたと再三仰有るのを見送った後で
自分のなかで何かが大きく変わったなぁと思える出来事でした。
感動している自分がそこにいて人様のお役に立てるんだとの思いが
以後、修理にも誠心誠意努めなければならぬなと思い今迄修理というものを一つも受ける事をしなかった自分を恥じ入り大いに反省を強いられた出来事で今もそのインパクトは私の魂に突き刺さったままです。誠実に、真摯に向かう事の大切さを教えて戴きました。…礼